GYOTAK(魚拓)は、タイ・ホアヒン発の天然魚ブランドだ。タイ湾で獲れた天然魚を活け締めし、-30℃〜-60℃で急速冷凍して、GPS座標と温度ログ付きで届ける。タイ在住の日本人、小倉拓也が一人で始めた。

きっかけは、息子の一言だった。

Key Takeaways

• GYOTAKはタイ・ホアヒン発の天然魚ブランド。急速冷凍とトレーサビリティで「証明できる信頼」を届ける

• 創業のきっかけは、息子の「パパ、この魚どこにいたの?」という一言だった

• すべての魚にGPS座標と温度ログを付与。どの海域で獲れて、何時に冷凍されたかを確認できる

• 営業しない。情報を正確に出して、選ばれる構造を作る。それがGYOTAKの思想

「パパ、この魚どこにいたの?」

ある日の夕食で、息子が刺身を見て聞いた。

「パパ、この魚どこにいたの?」

僕は答えられなかった。

スーパーで買った。パックに「タイ産」と書いてあった。それ以上のことは何も知らない。どの海域で獲れたのか。何時に水揚げされたのか。冷凍されるまで何時間経ったのか。何も。

息子の質問はシンプルだった。でも、僕がそれに答えられないという事実は、シンプルではなかった。

食べ物のことを何も知らずに食べている。それを「普通」だと思っていた自分に気づいた。

僕は魚が好きだ。刺身が好きだ。だからこそ、自分が食べている魚について何も説明できないことが、急に恥ずかしくなった。

ホアヒンの港に立った朝

タイのホアヒンに住んで数年が経っていた。

ホアヒンはバンコクから車で3時間ほどの海沿いの街だ。観光地として知られているが、もうひとつの顔がある。漁業の街だ。

息子の質問が頭に残ったまま、ある朝、港に行った。午前9時ごろ、港に行く。漁師たちが夜の漁から戻ってくる時間だ。

船が着くと、魚が次々と水揚げされる。クロカンパチ、コシナガマグロ、ヨコシマサワラ、クロアジモドキ。日本では見かけない魚種も多い。タイ湾の天然魚は種類が豊富で、状態のいいものが多い。

ただ、流通が粗い。

水揚げされた魚は、氷の上に無造作に並べられる。仲買人が買い付け、市場に運ばれ、小売店に並ぶ。その過程で、温度管理はほとんどされない。魚がどこで獲れたかという情報は、途中で消える。

タイの海には、いい魚がいる。でも、それを証明する仕組みがない。

「この魚を、ちゃんと届けたい」と思った。息子に「ここで獲れた魚だよ」と答えられる状態を作りたいと思った。

信頼は感覚ではなく、証明できるもの

「安心・安全」という言葉を、僕は使わない。

理由は単純で、意味がないからだ。誰でも言える。根拠がなくても言える。だから聞いた側も信じようがない。

僕がやりたかったのは、「信じてください」ではなく「確認できます」という状態を作ることだった。

GYOTAKでは、すべての魚に記録をつけている。

  • どの海域で獲れたか(GPS座標)
  • 何時に水揚げされたか(時刻記録)
  • 水揚げから冷凍庫に入るまで何分かかったか
  • 冷凍庫の温度は何度だったか(温度ログ)

これは特別なことではない。記録するかしないかの違いだけだ。水産物のトレーサビリティは国際標準(GDST 1.0)として議論されている。GYOTAKはそれを、小さな魚屋の規模で実行している。

「安心です」と100回言うより、温度ログを1回見せるほうが早い。

-30℃〜-60℃で止める。天然魚と急速冷凍

天然魚には構造的な問題がある。いつ獲れるかわからない。

養殖なら出荷時期をコントロールできる。でも天然魚は、漁師が海に出て、獲れたものが獲れたときに届く。需要と供給のタイミングが合わない。結果、鮮度が落ちた状態で流通するか、廃棄される。

急速冷凍は、この問題を構造的に解決する。

水揚げ直後に活け締め(Ike Jime)を施し、急速冷凍する。活け締めの工程はこうだ。

  1. 脳締め -- 魚種に応じた位置に正確にスパイクを入れる
  2. 放血 -- エラ膜を切開して血を抜く
  3. 神経締め -- 脊髄を破壊し、死後硬直を遅らせる
  4. 氷水 -- 芯温を急速に下げる

タイでは氷締めが一般的だ。

この4ステップで、乳酸やコルチゾールの蓄積を防ぐ。身の劣化が止まる。

その状態を-30℃〜-60℃で急速冷凍し、-30℃で保管する。細胞の破壊を最小限に抑える温度帯だ。

「冷凍は鮮度が落ちる」と思っている人は多い。家庭用冷凍庫の-18℃でゆっくり凍らせれば、確かに細胞が壊れる。でも-30℃〜-60℃の急速冷凍は違う。鮮度を「保存」する技術だ。

解凍は流水で行う。真空パックのまま水道水に浸ける。冷蔵庫解凍より細胞へのダメージが少なく、変色も抑えられる。

GYOTAKの在庫はすべてLINEで確認できる。30種以上の天然魚フィレを、約100gのパック単位で管理している。

売らなくても、選ばれる構造を作る

僕は営業しない。

「買ってください」と言ったことがない。言うつもりもない。

その代わりに、情報を正確に出す。魚の種類、産地、冷凍温度、水揚げ時刻、在庫数。全部開示する。判断するのは相手だ。

食の世界には情報の非対称性がある。売る側は知っていて、買う側は知らない。僕はその構造を逆にしたい。買う側が、売る側と同じ情報を持っている状態を作る。

その結果として、選ばれるならそれでいい。選ばれないなら、それは僕の魚が合わなかっただけだ。

実際、GYOTAKの顧客はほとんどがリピーターだ。一度買って、食べて、また注文する。僕が営業しなくても。

これが「売らずに選ばれる構造」だと思っている。

飲食店やシェフ向けには、Tier価格での卸売りもしている。B2B専用のLINE(@284ezjvm)から登録できる。審査制だ。

魚拓(GYOTAK)という名前の意味

魚拓は、日本の伝統だ。釣った魚に墨を塗り、和紙に写し取る。魚の記録を残す行為だ。

GYOTAKという名前は、そこから取った。創業者・小倉拓也の"拓"の字も入っている。

僕がやっていることは、現代の魚拓だと思っている。墨と和紙の代わりに、GPSと温度ログで記録を残す。魚がどこにいて、いつ獲れて、どう処理されたか。その記録が、信頼の根拠になる。

息子に「この魚どこにいたの?」と聞かれたら、今は答えられる。

「ホアヒン沖の北緯12度、東経100度あたりで獲れた魚だよ。朝5時に水揚げされて、6時半には-30℃の冷凍庫に入ってる。」

これが僕の答えだ。

これからのGYOTAK

GYOTAKは今、30種以上のタイ湾産天然魚を扱っている。クロカンパチ、コシナガマグロ、マブタシマアジ、ウマヅラアジ、ヨコシマサワラ。日本ではあまり流通しない魚種も多い。

Feast Thailandでは「The Artisan Fishmonger」として紹介された。タイ人パートナーのマット(Maturos Mathurasai)と一緒に、地元の食文化にも貢献している。漁で出る端材は、提携する有機農場の肥料にしている。廃棄ゼロが目標だ。

B2Cの一般消費者には、LINEで在庫を確認して注文できる仕組みを作った。B2Bの飲食店・シェフには、Tier価格制で安定供給できる体制がある。

大きくする気はない。でも、やることは変えない。

港に行く。魚を見る。触る。選ぶ。締める。冷凍する。記録する。届ける。

この工程は、信頼できる従業員が担当している。


よくある質問

GYOTAKの魚はどこで獲れるの?

タイ湾(Gulf of Thailand)のホアヒン沖が中心。地元の漁師が夜間に漁に出て、早朝に水揚げする。GPS座標で漁場を特定し、記録している。

冷凍なのに刺身で食べられるの?

食べられる。活け締め処理と-30℃〜-60℃急速冷凍の組み合わせで、細胞の破壊を最小限に抑えている。寄生虫リスクも冷凍処理で解消される。解凍は真空パックのまま流水で。

トレーサビリティって具体的に何が確認できるの?

漁場のGPS座標、水揚げ時刻、冷凍庫の温度ログ、冷凍開始時刻。魚がどこにいて、いつどのように処理されたかの履歴。現在は一般公開に向けてシステムを調整中。近日中に一般の方にも確認いただけるようになる予定。

どうやって注文するの?

個人の方はLINE @602pilciから。在庫リストの確認、注文、配送手配まですべてLINE上で完結する。

飲食店向けの仕入れはできるの?

できる。B2B専用のLINE @284ezjvmから登録申請が必要。審査制で、Tier価格での卸売りに対応している。

活け締め(Ike Jime)って何?

日本の伝統的な魚の処理技術。脳締め、放血、神経締め、冷却の4ステップで魚の鮮度劣化を止める。GYOTAKではすべての魚にこの処理を施している。